JVの運営体制について

1.JVとは

JVとは、(Joint Venture(ジョイントベンチャー)の略で、共同企業体のことをいいます。

1つの建設工事を複数の建設業者が共同で受注・施工する事業組織体であり、その法的性格は法人格のない団体であり、民法上の組合の一種であると考えられています。

共同企業体は、建設業者が単独で受注及び施工を行う場合とは異なり、複数の建設業者が1つの建設工事を共同で受注し、施工・完成させることを目的として形成する事業組織体のことをいいます。

共同して事業を行うことの合意そのものは、共同企業体の構成員間の契約(共同企業体協定書)によるもので、共同企業体は、各構成員間の契約関係から生ずる人的結合関係(団体の一種)であるということができます。

このように、共同企業体は、個々の構成員間の契約により結合された団体であり、単なる共同請負(民法第430条の不可分債務の一種)にとどまるものではないと解することが妥当と考えられます。

学説・判例によれば、団体のうち、団体としての独自性が強く法人格を与えるにふさわしいものが社団であり、そうでないものが組合であるとされています。そして、社団のうち民法又は特別法の規定により認められたものが社団法人であり、社団でありながら法人格が与えられていないものが「権利能力なき社団」であるとされます。

共同企業体は、共同で事業を行うという目的をもって形成された団体ですが、民法上又は特別法上これを社団法人として認める規定がないことから、法人格を有しないこととなります。

社団において、団体における構成員の権利義務は定款等個々の構成員を離れた一般的規定で定められており、団体の業務を執行する者も定款に定められているのに対し、民法上の組合においては、構成員の権利義務関係を構成員相互間の契約で定めており、業務執行も全員又は特定の構成員が行うことになっています。

これらの点を踏まえると、共同企業体の法的性格については、一般的には「民法上の組合」であると解されています。

このため、共同企業体協定書に規定のない事項については、民法の組合に関する規定に基づいて処理されることが妥当であると考えられます。

2.共同企業体の権利主体性について

共同企業体は法人格を有しない団体(民法上の組合)であるため、共同企業体として行った法律行為の権利義務は、原則として各構成員に帰属し、共同企業体に帰属するものではないと考えられています。

そのため、共同企業体が第三者と法律行為(下請契約の締結、資機材の購入契約の締結、火災保険契約の締結等)を行うには、常に構成員全員の名義を表示するのが典型的な形であると考えられます。

このことは、共同企業体の外部関係について共同企業体を代表する権限が与えられている代表者制度を設けている場合でも、共同企業体構成員全員の名義を表示した上で代表者の名義を表示して法律行為を行うことになります。

しかし、共同企業体が建設工事の完成という目的を達成するために行う法律行為すべてが、常に全構成員の表示がないと共同企業体としての権利義務、つまり全構成員の権利義務にならないのでは、実務上不便な場合があります。

例えば、遠隔地の建設業者間で構成される共同企業体の場合には、その事務手続が困難となるばかりでなく、共同企業体の相手となる資材メーカー等においても迅速な経理処理が難しくなるなどの弊害も大きくなります。

そこで、共同企業体の法律行為として、全構成員の表示を必要とする方法以外の方法による共同企業体の権利主体性が認められるかが問題となります。

他の方法とは、例えば、共同企業体を代表する権限を有する代表者が、共同企業体代表者と表示(「〇〇共同企業体代表者〇〇」と表示)して法律行為を行ったとき、その法律行為に基づく権利義務を共同企業体自体が取得し、負担し得るかであり、あるいは、代表者の表示も省略し、単に「〇〇共同企業体」とのみ表示して行った法律行為の帰属はどうなるかということです。

法人格を有する団体は属人的な権利を除き、全ての面で権利主体性が認められています。

また、一般の取引社会においては、ある団体が法人格を持つものであるかどうか、その内部組織が社団か組合かを調査することなく、当該団体の代表者あるいは当該団体名の名義による取引も広く行われています。

共同企業体においても、共同企業体と取引をする相手方が共同企業体代表者(「〇〇共同企業体代表者〇〇」)あるいは共同企業体名のみ(「〇〇共同企業体」)を表示した取引を承知するなら、近代財産法における私的自治の原則からみて、これを肯定することは合理的であると思われます。
例えば、火災保険契約、前払保証契約の締結等は一般的に共同企業体代表者名義で行われています。このほか、下請契約の締結(甲型共同企業体の場合)、建設資材メーカー・機材リース会社への注文書及び領収書等の表示などはすべて共同企業体の名義のみの表示で行っているところが多いようです。

これに対して、建設業法の許可は、建設工事を営む者に対して、一定の要件を満たす場合に限り同法の許可を認めるものであり、その許可は、実質的な施工主体に対して行うことになります。このため、共同企業体としては許可を受ける必要はありませんが、各構成員がそれぞれ各社の内容に応じた許可を受けている必要があります。また、税法上では共同企業体の施工により得た利益については共同企業体には課税されず、その分配を受けた各構成員に対して課税されています。

3.JV(共同企業体)の形態について

JVの形態は、その活用目的の違いによる区別(特定建設工事共同企業体と経常建設共同企業体)と、共同企業体の施工方法の違いによる区別(甲型共同企業体=共同施工方式と乙型共同企業体=分担施工方式)とに分類されます。
そして、活用目的と共同企業体としての施工方式は一致せず、両者の適正な組み合わせは、工事の性質等により判断されるべきものです。

(1)「特定」型と「経常」型の相違

①特定建設工事共同企業体(特定JV)
大規模かつ技術的難度の高い工事の施工に際して、技術力等を結集することにより工事の安定的施工を確保する場合等、工事の規模・性格等に照らし、共同企業体による施工が必要と認められる場合に工事毎に結成する共同企業体であり、工事が完了すれば解散することとなります。

②経常建設共同企業体(経常JV)
中小・中堅建設業者が継続的な協業関係を確保することによって、工事の施工に当たり総合力が発揮できる等、実質的に施工能力が増大したと認められる経常JVに対しては、構成員単独では受注し得なかった上位等級工事の機会を開き、中小・中堅建設業の育成・振興が図られることとされています。

(2)「甲」型と「乙」型の相違

甲型共同企業体又は乙型共同企業体という名称は、使用する標準的な共同企業体協定書<甲・乙>の区別に従ったものです。

①甲型共同企業体
甲型共同企業体とは、共同施工方式のことであり、全構成員が各々あらかじめ定めた出資の割合(例えば、A社30%、B社40%、C社30%)に応じて資金、人員、機械等を拠出して、一体となって工事を施工する方式をいいます。

この「出資」とは、財産的価値のあるものを全て対象としており、その出資の時期は共同企業体の資金計画に基づき工事の進捗に応じて決定されます。
損益計算についても、共同企業体として会計単位を設けて、合同で損益計算が行われ、各構成員の企業会計への帰属は出資比率に応じたものとなります。
利益(欠損)金の配分等については、各構成員の出資の割合に応じて配分が行われます。

②乙型共同企業体
乙型共同企業体とは、分担施工方式のことであり、各構成員間で共同企業体の請け負った工事をあらかじめ分割し、各構成員は、それぞれの分担した工事について責任をもって施工する方式をいいます。
例えば、水力発電施設工事において、A社は発電所、B社はダム、C社は導水路を分担して施工するというものです。
表面的には分離・分割発注と似ていますが、最終的には他の構成員の施工した工事について、お互いが発注者に対して連帯責任を負うことになっているところが分離・分割発注と大きく異なります。

各構成員は共通経費については共同企業体の事務局へ支払いますが、損益計算については、各構成員が自分の分担工事ごとに行い、甲型共同企業体のように構成員一体となった合同計算は行いません。
したがって、乙型共同企業体では、構成員の中に、利益をあげた者と損失が生じた者とが混在する可能性もあります。
利益(欠損)金の配分等についても、各社の損益計算で算定された利益(欠損)金が各社ごとに残ることになり、構成員間で利益と損失の調整がなされることはありません。
しかし、乙型共同企業体であっても、運営委員会で定めた分担表に基づく責務を各構成員が果たすことのほか、施工の共同化、例えば施工計画、施工監理さらには資機材の共同使用といった面についてもできる限り努力することが望まれます。

4.JVの組成について

中小・中堅建設業者が継続的な協業関係を確保することによって、工事の施工に当たり総合力が発揮できる等、実質的に施工能力が増大することにより、下請け工事はもとより、公共工事においても構成員単独では受注し得なかった上位等級工事の機会も開ける可能性があります。

JVの組成に当たっては、運営委員会設置までの間必要に応じて準備委員会を開催し、原則として次に掲げる事項について協議決定をする必要があります。
①協定書・運営委員会・施工委員会
②工事金額の見積
③※規則等(案)の作成
④工事事務所編成(案)の作成
⑤その他付議を要すると認められる事項

※主要規則
①工事事務所規則
②就業規則
③経理取扱規則
④瑕疵担保責任等に係る覚え書き等

共同企業体モデル規則こちら

〈参考〉共同企業体(JV)の会計処理のポイント

1.JVの会計組織

JVは、各建設会社が構成員となり、各建設会社の会計処理方法はそれぞれ異なっていることが多いため、まずJVとしての統一的な会計組織や会計処理を決めておく必要があります。

JVの会計処理には、①JVとして独立した会計処理と②構成員の代表者(スポンサー企業)の中で行われる会計処理の2つの方法があります。

JVの会計処理については、「共同企業体運営モデル規則」(平成4年3月6日、建設業経振発第33号)があり、この中の経理取扱規則第5条によれば、「共同企業体は、独立した会計単位として経理すること」とされています。

実際の会計実務では、共同企業体の経理が完全に独立した会計組織として整理されていることは少なく、スポンサー企業の会計組織の中に取り込まれて整理されている方式が多くみられます。ただし、それであっても、JV会計の本則の意図をしっかりと理解して、実質的に独立会計と同等の効果をもたらす工夫は不可欠です。

同取扱規則の注において、「記帳の様式その他経理処理の手続については、実際上代表者の例によることが考えられる。」と記載されています。また、「共同企業体の規模、性格等によって、効率的、正確性等の観点から代表者の電算システム等を適宜活用することも差し支えない。その場合は、代表者に委任する経理事務の範囲を経理取扱規則に明確に定めていかなければならない。」とされています。以上の文言が、JV会計の原則的整理方式と実務的な便宜方式の調和で、かなり実践的といえます。

2.JVの会計規則

「共同企業体運営モデル規則」には、JVにおいて整備すべきいくつかの規則が規定されており、このうち会計規則としてのものが「経理取扱規則」です。

(1)経理の目的と会計処理方法

JVの経理取扱規則は、会計処理、費用負担、会計報告等について定めることにより、共同企業体の財政状態及び経営成績を明瞭に開示し、JVの適正かつ円滑な運営と構成員間の公正を確保することを目的として定められています。

JV工事における経理業務は、個別工事契約会計基準における場合と本質的な違いはなく、次のような具体的プロセスによります。

①会計伝票、帳簿の作成、証憑書類の整理
②工事費の支払、請負金の請求及び配分
③実行予算書の作成と原価計算
④月次経理諸表の作成・管理
⑤JV決算書の作成及び監査

(2)JVの会計期間

JVの会計期間は、JVの成立の日から解散の日までとし、月次の経理事務は毎月1日に始まり同月末日をもって締め切ります。

(3)JVの経理処理

JVは、原則として独立した会計単位として処理しますが、前述のとおり、経理処理の手続きについては、実際上、スポンサーの例によることが多く、JVの規模、性格等によって、効率性、正確性等の観点から代表者の電算システム等を適宜活用することも差し支えないものとされています。

会計帳簿の内容は、仕訳帳、総勘定元帳及びこれらに付随する補助簿からなる。勘定科目は、建設業法施行規則別記様式第15号及び第16号に準拠して定める必要があります。

(4)出資及び支払方法

JVの運営の特徴は、各構成員がJV全体の資金計画に従って、JV協定書の出資割合に基づいて出資を行い、その割合によって工事利益を獲得することにあります。
したがって、まずJVの契約を結ぶ前に各構成員の出資の割合をJV協定書において定める必要があります。そして、工事着工後JVの責任者(所長)は速やかに資金収支の全体計画を立て各構成員へ提出し、毎月、資金収支管理のため、各構成員に対しての請求を行い、各構成員は、この出資請求書に基づき出資を行うことになります。

(5)協定原価

協定原価とは、共同企業体の共通原価に算入すべき原価をいい、その内容はJVの施工委員会で作成し、運営委員会の承認を得ることとされています。
JV工事を施工する場合、単独工事と同じように実行予算に基づく原価管理が行われますが、必要以上の経費がJVの共通原価として処理されないように実行予算の作成にあたって協定原価の範囲を明確にしておく必要があります。
「共同企業体運営モデル規則」別記様式において、協定原価算入基準として55項目の協定原価を例示しています。

(6)工事実行予算

工事実行予算案は、工事計画に基づき施工委員会で作成し、運営委員会の承認を得ます。
JVの所長は、予算の執行にあたっては常に予算と実績を比較対照し、施工の適正化と予定利益の確保に努めとともに、予算と実績の間に重要な差異が生じた場合には、その理由を明らかにした資料を速やかに作成し、施工委員会を通して運営委員会の承認を得ることになります。

(7)決算案の作成と監査

JVの所長は、工事竣工後速やかに清算業務に着手し、財務諸表すなわち、貸借対照表、損益計算書、完成工事原価報告書、資金収支表、前記書類の附属明細書を作成する必要があります。
JVの監査委員は、決算案及び全ての業務執行に関する事項について監査を実施して監査報告書を運営委員会に提出しなければなりません。

JVの会計処理ガイドラインこちら

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